人材不足はなぜ続く?理由や対応策をご紹介

雇用情勢は着実に改善しているといわれていますが、それでも多くの企業が人材不足に悩んでいます。このまま多くの企業で人材不足の状態が続けば、やがては技術・ノウハウの継承や、事業継続自体が困難になってしまうといったリスクが増大することが予測されます。ではなぜ雇用情勢が改善しているのにもかかわらず人材不足の状態が続いているのでしょう? 今回は人材不足が続く理由を見るとともに、それを解消するために企業がやるべきことについて考察していきます。

雇用情勢の改善はどのような影響をもたらしたのか

内閣府は2018年1月に開催された月例経済報告等に関する関係閣僚会議において取り上げられた「人手不足感の高まりについて」に関して、より詳細な分析を行ったものを公開しています。これによると、リーマンショック時の2009~2010年に5%まで上昇した完全失業率は、2017年12月時点で1994年以来の低水準である2.8%です。また同時期の有効求人倍率も1.59倍となっており、これも1974年1月以来の高さです。ちなみに2018年の完全失業率は2.4%とさらに減少、有効求人倍率も1.61倍にまで上昇しています。

しかし、これだけ求人倍率が上昇し、完全失業率が減少しているにもかかわらず、企業の人手不足感は以前にも増して高まっています。日本銀行が公開している2019年6月の「全国企業短期経済観測調査」によると、雇用人員が「過剰」であると回答した企業の割合から「不足」と回答した企業の割合を引いた「雇用人員判断D.I.(※)」は、90年代前半のバブル期に近づく勢いです。特に中小企業の落ち込みが大きく、人手不足感は年々、高まっているといえます。
(※)Diffusion Indexの略。企業の業況感や設備、雇用人員の過不足などの各種判断を指数化したもの。

また、厚生労働省による「雇用動向調査」の未充足求人はリーマンショック後の2010年から増加を続け、2018年上半期で約133万8千人です。これはリーマンショック前のピークである2007年の約60万人から倍以上の水準となっています。

雇用形態別では正社員が45%、パートタイム労働者が33%と正社員のほうが不足しています。しかし企業規模別に見ると、従業員が1,000人以上の企業では正社員よりもパートタイム労働者が不足しており、それ以下の規模では正社員が大幅に不足しているという結果が出ています。さらに産業別では、全般的に不足しているものの、特に「運輸・郵便」や「医療・福祉」「その他サービス(廃棄物処理業、自動車整備業、職業紹介・労働者派遣業など)」で人手不足感が高く、「金融・保険」は比較的、人手不足感が少ないというのが現状です。

こういった状況が続くことで企業にはどういった影響が出るのでしょうか。具体的には、「需要が増加した際の対応ができない」「技術・ノウハウの伝承が困難になる」「業務運営上の支障がある」といったことが挙げられます。リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査(2018年上半期)」において、中途採用で人材を確保できなかった企業で「事業に深刻な影響が出ている」と回答した企業は6.2%と現状ではまだ大きな影響が出ていないものの、50.8%は将来的には影響が出ると回答しています。このことからも、人員不足が招く影響は非常に大きいと考えられます。

人材不足が続いている理由と対応策

では、景気回復傾向にあり、完全失業率も減少しているにもかかわらず、ここまで人材不足が続いているのはどういった理由があるのでしょう? また人材不足を改善していくためにはどういった施策が必要なのでしょうか。 

人材不足が続く理由としては、いくつか考えられますがそのなかでも大きいのが15~64歳のいわゆる生産年齢人口の減少です。内閣府が発表している平成30年版高齢社会白書によると、2010年には8,103万人であったのが、2020年には7,406万人になると予測されていて、わずか10年で697万人も減少となっています。単純に働き手が減少していることが人材不足の増加に加担していることは間違いありません。

また前項でもご紹介したように、有効求人倍率が上昇していることも人材不足の一因となっています。有効求人倍率が上昇するということは、基本的に売り手市場になっているということです。そうなれば求職者はそのなかでもできるだけ待遇の良い企業を目指すようになり、結果として人気のある業種と不人気の業種に大きな差が生まれるようになります。前項の産業別で運輸や福祉、産業廃棄物処理業など長時間労働、低賃金、危険といったイメージのある産業で特に人手不足感が高いというのも、こうした傾向があるからだと推測できます。

特に最近は若者の大企業志向が上昇していて、株式会社マイナビが行った「2019年卒マイナビ大学生就職意識調査」を見ると、2013年以降、男性、女性問わず大企業志向の学生が右肩上がりで増加しています。前項で中小規模の企業で正社員が不足しているという調査結果がありましたが、この調査を見てもそれがうなずけます。

こうした状況を変えるための対応策として、「潜在労働力の就業促進」とあわせて「労働生産性の向上」「業務効率化」を行っていくことが重要です。生産年齢人口は減少していくものの、その分、65歳以上の層は今後、増加傾向にあります。また、これまで出産や介護などにより退職をせざるをえなかった層もテレワークを導入することで、就業機会を創出することが可能です。

そして同時に長時間労働の是正や業務省力化への投資をすることで環境改善を行っていくことも必要です。これを潜在労働力の就業促進とセットで行っていくことが、人材不足を解消するうえでやるべき施策といえます。

独自のアイデアで人材不足を解消している企業の事例

中小企業庁では、中小規模の企業が実際に取り組んでいる人手不足対応事例を公開しています。このなかから人材不足解消アイデアを2つご紹介します。

仕事の効率化・標準化による業務改善を実施(森山産業株式会社)

自動車部品や電気照明器具製造を行う森山産業株式会社では、生産管理や在庫管理全般で連携が取れず、それによる待ち時間が長いことでリードタイムの短縮に課題を抱えていました。また新たな人員確保ができていないことも、課題克服を困難にしていました。そこで次の3つのポイントを改善し、生産性の向上とともに人材確保にも成功しました。

  1. コンピューターシステムの構築により、生産工程の一元管理を可能にし、稼働率や在庫数の可視化を実現。
  2. パート社員自身による就業日時の管理を実践。パート社員同士が出勤日を互いに申告し、調整し合うことで「家庭と仕事の両立がしやすい」と評判が広がり、女性パート社員人材の確保を実現。
  3. 「誰にでもわかる・できる・任せられる」をモットーに職掌と多能工化を推進。職掌と多能工化表を作成し、計画的に従業員のレベルアップを図るとともに業務の効率化と標準化を実現。

これらの施策により、製販リードタイムは38日から8日、さらに棚卸保有日数も43日から12日にまで短縮。また受注残の金額も取組前の受注残比17.1%から1.7%にまで圧縮を実現しています。

ITツールの導入により現場と本社の情報共有を図り、生産性アップ(向洋電機土木株式会社)

建設業を行っている向洋電機土木株式会社では、施工現場が遠方になることが多く、本社との往復に時間やコストがかさんでいました。さらに業務内容が多様化したことで従業員の育成が必要になったものの、忙しさのなかで、その時間を取ることができないといった課題を抱えていました。これらの課題解決について次のような施策を実施したのです。

  1. 打ち合わせや工事進捗・資材管理、仕様書作成などのシステムを構築。さらに本社や現場以外に自宅でもシステムを利用できる仕組みを整備し、テレワークを推進。またITツール導入に際しては、初期・運営費用を抑えるため、無料のソフトウェアを採用。
  2. 情報セキュリティ対策として、会社から業務用携帯端末を会社負担で支給。個人所有のパソコン、モバイルを業務で使用することを禁止。

これらの施策により、生産性を倍増、残業時間の9割削減を実現。また残業が減りプライベートの時間が増えたことで空いた時間を使って資格取得をする従業員が増加、結果として公共工事における「経営事項審査」の評価点が高まり、受注増を達成しています。

人材不足解消のポイントは賃金アップだけではない

「人材不足を解消するには賃金をアップしなければならないが、予算がなくて実行に移せない」という企業は少なくありません。しかし今回、さまざまなアイデアで人材不足を解消した事例を見る限り、必ずしも賃金をアップしなくても雇用を確保することは可能なことがおわかりいただけたのではないでしょうか。

人材不足を解消するために重要なことは、賃金をアップすることももちろん必要な場合もありますが、それ以上に長時間労働の是正や業務省力化への投資をすることも含め、誰もが気持ちよく働くことができる環境を整備することです。企業にとって人材はもっとも重要な資産であると認識し、長く安心して働ける環境をつくることが人材不足解消の近道となるといえるでしょう。

参考

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