行政のDX化によって何が変わるのか?考えられる課題についても解説

行政のDX化によって何が変わるのか?考えられる課題についても解説

DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれるなか、課題を抱えているのは民間企業だけではありません。政府は行政のDX化を実現するために、デジタル庁を創設し行政システムの仕様統一に向けて具体的な取り組みをスタートしました。

今回の記事では、現在の行政システムが抱えている課題を紹介するとともに、行政のDX化によって何が変わるのかについて解説します。民間企業におけるDXの課題とも共通する部分があるため、ぜひ参考にしてみてください。

行政のDX化が本格的に始動

菅政権肝いりの政策として掲げられている行政のDX化を実現するために、早ければ2021年9月にデジタル庁が発足する予定です。そもそも行政のDX化とは、一言で表すと自治体ごとに個別に存在する行政システムの仕様を統一し、住民サービスの質および利便性向上を実現するものです。また同時に、全国的に統一された仕様のシステムを実現することによって、システムそのものの運用コストも削減し行政の実務を効率化することにもつながります。

DX化の対象となる行政システムは約1,700にもおよび、その効果は莫大なものになると考えられるのです。政府は2025年度までに行政のDX化を実現することを義務付けた法律を定めたうえで、これに伴う予算は毎年数千億円規模の基金として積み立てていく予定です。

ちなみに、行政のDX化は民間企業にとって関連性が低いと考えられがちですが、例えば税務関係の書類や各種許認可など、あらゆる行政手続きがデジタル化されることによって、民間企業も従来の業務プロセスを変革していかなくてはなりません。そのような意味で、本格的に行政のDX化が始動したということは極めて大きなインパクトがあり、今後官民問わずデジタル化の流れがさらに加速していくと考えられるのです。

現在の行政システムの問題点

そもそも現在の行政システムはどうなっているのか、問題点もあわせて詳しく見てみましょう。

例えば、住民情報や社会保障、税務関連で使用する行政システムは、自治体ごとに独自でベンダーに発注している現状があります。そのため、自治体が変わるとシステムの仕様も異なるのです。システムの仕様が異なるということは、自治体同士でデータをやり取りしたり、システム同士を連携したりといったことが難しくなるという問題が発生します。

システムを利用する側の職員は、自らが使いやすいシステムの要件や仕様を定め、個別にベンダーに発注できるほか、ベンダー側からしても、自治体ごとにシステム開発を受注できるため収益性が高いメリットがあります。しかし、国全体で見たとき、このような仕組みは決して効率的な予算の使い方とはいえません。

また、何よりも住民サービスを利用するエンドユーザーにとって、システム連携が進まないことで手続きが煩雑になるなど、不便を強いられるのです。そのような行政システムの問題を解決するために、行政のDX化が求められています。

行政のDX化実現によって何が改善されるのか

2020年に新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発出された際、政府は特別定額給付金の支給を決定しました。しかし、支給手続きは自治体ごとに行う必要があったため、住んでいる地域によって支給日に差が生じるという問題が発生したのです。

これは住民の数や職員の数という要因以外にも、自治体が利用している情報システムの仕様も大きく関係していました。そもそもオンライン申請に対応する「マイナポータル」と「住民基本台帳」のシステムが連携されていないという問題もありましたが、それに加えて自治体ごとのシステムの仕様が異なっていたために、業務フローや作業手順に差が生じることになったのです。しかし、行政のDX化が実現され、全国の自治体ごとに統一されたシステムが利用できるようになると、このような問題も生じにくくなると期待されます。

また、さらに身近な例としては、引っ越しに伴う住民票の異動や社会保障関連の手続きが挙げられます。引っ越しの際には、それまで居住していた自治体に「転出届」を提出した後、引っ越し先の自治体に「転入届」を提出します。このような煩雑な手続きになるのは、先ほど紹介したように自治体ごとにシステムの仕様が異なっていることも一因であることから、DX化によってシステムの仕様が統一されると住民が提出する書類や手続きが大幅に簡素化されることが期待できるのです。

このように、行政のDX化は予算を効率的に使用しコスト削減を行う以外にも、住民サービスの利便性を向上させるという大きな目的を実現するために不可欠な取り組みともいえます。

行政のDX化実現には課題も多い

私たち市民にとって、行政のDX化が実現されるとさまざまなメリットを享受できることが分かります。しかし、DX化を実現しようとしたとき、現実的に考えるとさまざまな課題が浮上してくることも事実です。

なかでも大きいのが「どこまで仕様を統一できるのか」という問題でしょう。本来であればクラウドシステムへの移行を早期に進めるのが理想的なのですが、これまで長きにわたって使用してきたシステムの仕様が大きく変わることによって、住民サービスに影響をおよぼすおそれも出てきます。そのため、自治体を管轄する総務省は、ただちに全システムをクラウド環境に移行し、仕様を統一することは難しいという立場をとっています。

そこで、現実的な解決策として、当面の間は共通の仕様を決めたうえで、自治体が各ベンダーにシステム開発を依頼する形を検討しています。しかし、ここで懸念すべきなのが「共通の仕様」の範囲が狭いと、結局は自治体ごとに異なるシステムが乱立する現在と変わらない状況にいたるおそれがあるということ。反対に、あまりにも広い範囲を指定してしまうと、行政側のオペレーションや業務フローが大きく変わり影響をおよぼす可能性もあるため、仕様の確定は極めて難しい問題といえるでしょう。

行政のDX化は企業のDX化にも共通する部分が多い

国を1つの会社、自治体を各部署として考えたとき、個別の独自システムが乱立しているという同様の問題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。仕様が異なる複数のシステムが乱立していると、業務効率化の足かせになるほか、部署間の連携がしにくく生産性も低下してしまいます。これこそがDXが求められる最大の理由であり、一刻も早くレガシーなシステムからの脱却を実現しなければ競争力の低下を招き、急速に進む情報化社会に取り残される可能性が大きいのです。

このようなDXの問題は官民問わず多くの現場で起こっており、今後さらに表面化してくる懸念があります。現場で働く担当者にとっては使いやすいシステムでも、それが足かせとなり部署や担当者間の連携が実現できないのでは生産性アップは見込めません。そして何よりも、DXの実現が遅れることはエンドユーザーにとって不便を強いる結果になる可能性もあるのです。

「現在の業務に支障をきたしていないため、DXに取り組まなくても問題ない」と考えがちですが、取引先や官公庁の多くがDX化を実現することによって、従来の業務プロセスのままではついていけなくなる日がやってくるかもしれません。DXの実現は、行政だけではなく民間企業にとっても極めて重要な課題といえるのです。


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